高野とも議員の研修レポート
多摩住民自治研究所主催の「第1回議員の学校09」に参加して
5月17・18日の2日間、日野市で開かれた「第1回議員の学校09」に乾議員と参加した。「地方自治の原則と新しい時代の議会の創造」と題した学校の講義は、全部で5つ。どれも大きな視点から地方自治と議会のあり方について論じられ、とても勉強になった。
1、「維持可能な社会と地方自治」 宮本憲一氏(大阪市立大学名誉教授)
30年、50年先を見て動かなければならない重大な転換期が始まったと切り出した講義では、アメリカ発のサブプライムローンの破たんやリーマンショック以降の世界大不況は、民営化・規制緩和・小さな政府をすすめた新自由主義によるものであり、日本ではこの流れをくんだ小泉構造改革と三位一体改革によって、今日の不況と社会的混乱を招いていることがくわしく解明された。また、アメリカのオバマ大統領によるグリーンニューディールという政策転換と比べて、日本の経済対策は総花的で新自由主義の失敗の反省もないと指摘した。
提案された「維持可能な社会」とは、平和の維持、とくに核戦争の防止。環境保全。絶対的貧困の克服。民主主義の確立。基本的人権と思想・表現の自由の達成。これらは、憲法を活かすということだと思った。ここでの地方自治体の役割も、地域内産業の育成や憲法を地域に活かすための革新自治体づくりなど、紹介された全国の事例も含めて、もっと学びたい。
教授の「29年の恐慌は、軍事による雇用問題という解決になったが、資本主義の中での解決は恐ろしい。結局戦争につながった。今、またそういう道が選択されてはならない」という指摘は、強く印象に残った。
2、「地方自治の原則と地方議会の役割」 池上洋通氏(多摩住民自治研究所)
はじめに憲法の前文を読み上げ、「われら」という言葉でわかるように、日本国憲法は主権者国民の言葉で書いたものであるという指摘に、改めて感動した。また、明治憲法と今の憲法の決定的な違いは、第2章「戦争の放棄」と第8章「地方自治」であること。前文には目標と目的が書かれ、基本的人権の保障とそれを実現するための政府組織、その配置と権限、国際的な配置を定めているのが憲法であるとの説明に、深く学ばされた。
憲法には「国民」と「住民」が出てくるが、地方自治法に反映されている「住民」の定義は、国籍を問わない。戦争をやるという建て前がないからであり、この点から地方自治法は憲法9条に基づいていると言える。この指摘は、流山市でも自治基本条例制定時の議論の中で意識した問題として、納得できるものであった。
憲法の条項を具体的に挙げての話は、例えば地方自治体と言う政治組織がなければ基本的人権を実現できない。地方自治体は1人1人の暮らしに着目して制度をつくるべきだなど、憲法と地方自治、そして議会の役割がよくわかる講義だった。
3、「小金井市の議会改革」 芳須浩彰氏(元小金井市議会事務局長)
H14年からすすめられたという議会改革の成果は、流山市議会とあまり変わらないが、議論する過程で各会派から出された検討項目はかなり具体的で、今後流山市でも議論していきたい。流山市ではまだ実施していない日曜議会は、はじめた当初は傍聴者が多かったが、そのうち減ってきたという。開かれた議会とはどういうことか議論が必要だと思った。議会のしおりを2,000部作製したことや、速記者の廃止で400万円のカットというのは、研究の価値がある。
議会改革について、議員間で一致しなければ現状維持、あるいは不一致という結果を議長に戻し、議長の判断で本会議の採決へとの流れを聞いて、やはり議会改革は全会一致ですすめるべきものと感じた。
4、「地方財政の改革課題」 武田公子氏(金沢大学教授)
地方制度調査会のメンバーである教授は、まもなく出る最終報告に向けての議論の内容を報告。(1)合併特例法の期限がくるが、これ以上の推進策は不要という意見。(2)本来中立的でなければならない監査機能の充実。(3)議会制度のあり方。などが論じられた一方で、財政問題が議論されていないと指摘した。
議論を通じて、この間の合併による市町村の疲弊。ナショナルミニマムはすでに達成されたという前提での、自治体の自己責任論(ローカルオプティマム論)が三位一体改革を生み、自治体格差・地方の疲弊を引き起こしたことを解明した。
具体的な問題で印象に残ったのは、地域における貧困とのたたかいの中で焦点となっている生活保護の問題である。生活保護が自治体財政を圧迫させているとの攻撃があるが、生活扶助費の4分の3が国から、残りの4分の1は交付税措置がされており、本来は自治体の財政を圧迫していないはずだが、問題は交付税を他の分野に使っているという実態だとの指摘があった。流山市でも調査が必要だと感じた。
まとめとして(1)ナショナルミニマムを再構築し、交付税を本来の姿に戻すこと。(2)地域における総合的政策主体としての基礎自治体を確立し、貧困とのたたかいと社会的統合を。(3)議会の役割はここから見えてくる。との指摘は、自治体職員と議員、住民が一体となって取り組み、政府を動かしていかなければならない課題だと感じた。
5、「ヨーロッパ地方自治憲章と海外の地方自治」 廣田全男氏(横浜大学教授)
1980年代に作られた「ヨーロッパ地方自治憲章」は、地方自治の一定水準の国際規格であり、条約として結ぶという世界初の試みだと評価した。「公害問題に見られるように、国の法律によって受けた被害の苦しみは、その自治体が一番よくわかる。住民の権利を守る自治体の役割を示している」との説明は、具体的でよく理解できた。背景には、福祉国家の行き詰まり、社会主義体制の崩壊、グローバル化があり、地方自治の重要性に結び付いたことがあるというが、ヨーロッパには学ぶべきことがたくさんあるなと思った。同時に、日本国憲法では章を割いて地方自治を保障していることは、世界でも優れているということに改めて目を向けさせてもらった。